「童話を語るために」
高橋泰市
1 あなたは、もう語り手
童話を語りたいと思ったなら、その時はもう、りっぱな語り手なのです。とに かく語ってみてください。こどもたちの目は、きらきらと輝いてくるにちがいありません。
「お話はしてあげたいけれど、じょうずに話せないから。」とか、「お話しましょうねと改まると,なんだか照れくさくなって。」などとにげてはいませんか。
あなたが語ることによって、それを聞いたこどもたちには次のような効果が表れてくることを考えてください。
・童話を聞くという経験の積み重ねによって、ほかの人の話を聞くという習慣と態度が表れる。
・用語がふえる。
・簡単な文脈,文の表現が分かるようになる。
・耳から聞いで理解する能力が養われる。
・おもしろいと思った言葉に興味を持つ。
・筋のあらましが分かる。
・筋の展開を予想するようになる。
・情繰が養われる。
・想像力が養われる。
・みんなでいっしょに聞くということができるようになる。
2 聞き手は
(1) こどもたちだの場合と、大人もまじっでいる場合もあります,
(2) 一人の場合と、小人数の場合と大勢の場合があります。
(3) 幼児や低・中・高学年や,ときには中・高生など年齢が近いこどもたちだけの場合や混在している場合があります。いずれにしろ、どんな聞き手なのかつかむことです。子どもは体全体で信号を送ってきています。
3 どんなお話を?(話材)
(1) むかし話・神話・伝説・民話・童話・新聞・ラジオ・テレビ・自分自身が見聞したこと………等,なんでも話材になります。けれども,年齢に応じたものを選んでください。
(2) 話材の組み立て
・話のすじはなるベく単純に。
・登場人物はなるべく少なく。
・性格ははっきりと。
・会話を中心に。
(3) 読むお話と語るお話
書かれているお話は、読ませるためのものがほとんどです。ですから、すじは説明文によっで運ばれます。語るときは、説明によって進めると味気ないものになってしまうので、なるべく会話で進めていきます。
4 こどもの前に立って
ここでは、大勢のこどもの前に立つことを前提にします,大勢の前でできるようになれば、小人数の前なら当然できるけずです。大は小を兼れるわけです。
(1) 身なりはきちんとしましょう。だらしない格好でこどもたちの前に立たな いようにしてください。
(2) 明るい表情で立ってください。
(3) こどもたちの前列を一辺とした二等辺三角形(できれば正三角形)の頂点に立ちましょう。こどもの近くに立つと、語り手を見上げる形になり、こどもの首が疲れてしまいます。語り手は熱が入ってくるとだんだんそうなりがちなので気をつけましょう。
(4) 手を後ろに組まないで、横か前で組むようにしましょう。手を後ろに組むことは、いばった形で,こどもたちとの間に見えない壁を作ることになってしまいます。
(5) あちらこちらへ動き回らないようにしましょう。なんとなく落ち着かないこどもにしてしまいます。
(6) 光線を後ろに背負わないようにしましょう。語り手を見にくくし、落ち着いて聞けなくなってしまいます。
6 語るためには
1対1のおはなしのときはほとんど問題はありませんが、大勢の聞き手に対しておはなしをする場合は「声が小さい」「聞こえない」「声が通らない」「口の中にこもる」など、自分で感ずることもあるでしょうし、人から言われる場合もあるでしょう。声の大小、高低、音量などは個人差がありますが,直すように努めれば直せます。
(1) ことばは明瞭に
ことばはきれいに、ばっさり聞き取れるように発声しなければなりません。それには、□の開きがおおいに関係してきます。
○ ロの体操
A表
あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
やいゆえよ
らりるれろ
わいうえお
B表
あえいうえおあお
かけきくけこかこ
させしすせそさそ
たてちつてとたと
なねにぬねのなの
はへひふへほはほ
まめみむめもまも
やえいゆえよやよ
られりるれろらろ
わえいうえおわお
・あいうえおは、発声上根本になります。オペラ歌手になったつもりで、鏡の前で大きくロを開いて発声してみてください。
・A表の練習
a.左から右へ
b.右から左へ
c.上から下へ
d.下から上ヘ
・B表の練習
a.左から右へ
b.右から左へ
② 濁音と鼻濁音の練習
③ 早口言葉の練習
1お綾やお母さんにおあやまりなさい。
2家のあんどん丸あんどん隣のあんどん丸あんどん向こうのあんどん丸あんどん三つ合わせて三丸丸丸あんどん
3うり売りがうり売りに来てうり売り残し売り売り帰るうり売りの声
4うり売りがうり売りに来てうり売れば売るうりは古うりで古うりを売る
5歌うたいの前で歌うたうような歌うたいなら歌うたいの前で歌うたうけれども歌うたいの前で歌うたうような歌うたいでないから歌うたうことができぬ歌うたい
6歌うたうが来て歌うたえというが歌うたいほど歌がうたえるなら歌うたうが歌うたいほど歌がうたえないゆえ歌うたわぬ
7うたいうたいの前で歌え歌えとせめられてわたしも歌いにくいうたいを歌ったことはあるけれどもうたいうたいの前でうたい歌うほど歌いにくいうたいを歌ったことはない
8経営 経済 尖鋭 声援 遠泳 全然 全盛 全線 前衛
9思わじと思うも物を思うなり思わじとだに思わじや君
10お廊下のおすみのおたばこぼんにおつまずきあそばすなというのにおつまずきあそばす
11お庭のお池のおはすのお葉におかえるのお子がお三匹おとまりあそばしておさんしょのようなお目をおぱちくりおぱちくり
12神田かじ町の角のかんぶつ屋の勝ち栗はかたくてかめない
13神田かじ町の角のかんぶつ屋のかん兵さんのところで勝ち栗買ったら固くてかめない返しに行ったらかん兵さんが出てきてかんしやく起こしてかりかりかんだらかりかりかめた.
14かっぱとかめとかけっこしてかっばは途中でかっけにかかった
15橋の下でかっぱ子はかっぱ子うんだうんだ子もかっぱ子その子もかっぱ子親かっぱ子子がっぱ子
16親もかへい子もかへい親かへい子かへい親かへい親かへい子かへい
17上加茂の紙屋の孫兵衛か下賀茂の塩屋の孫兵衛か上加茂の紙孫か下加茂の塩孫か
(2)語りの口調
語りの口調といっても特別な口調があるわけではありません。普通に語ればいいのです。
① 緩急
内容によって、ゆっくりめ、早めに語るところが出てきますが、全体に早口にならないように気をつけてください。大勢の前で緊張して、早口になりやすいものです。
② 強弱
語尾だけを強調する人が増えていますが、何を強調するのかよく考えて語ってください。弱のとき、弱すぎて聞こえないということのないようにしましょう。
③高低
一定の高さで終始すると、味気無いものになってしまいます。
④間
間のとりかたは、語りにとってとても重要なことです。立で板に水のごとくでは、じっくりと聞きにくくなってしまいます。
⑤リズム
リズミカルな表現は、聞き手の年齢が低くなるほど必要になってきます。
⑥くりかえし
話のくりかえしやことばのくりかえしも、低年齢のこどもには必要です。
⑦言いあらわし方
老人は老人らしく、こどもはこどもらしい用語を使ったり、情景を言い表すための工夫をしたいものです。
⑧擬声・擬音
犬がワンワンとかクンクンとか鳴いたり、太鼓がドンドンとかテンツクテンツクとなったり、擬声・擬音を使って変化をつけるのもいいでしょう。
(3)身振り(ゼスチャー)
耳に訴えることばを視覚的な表現に訴えて、理解しやすくしたり印象づけたり、ことばの意味を強めたり、ことばの省略に役立てたりします。
(4) 表情
語り手の表情は、こどものー喜一憂にかかわってきます。気をつけてください。
6,上手になるために
(1)他人の語りをよく聞く
とても参考になります。いいなと思った語りかたは、どんどん取り入れてください。
(2)どんどん語る
どんどん語りましょう。こどもたちの反応を見て反省しまた語ることです,
(3)批評してもらう
とにかく語って体得してください。
参考童話 (読む言話です。これを語ってみてください。)
「ねずみのもちつき」
むかし,あるところに,心のきれいな,優しいおじいさんとおばあさんがすんでいました。
おじいさんは、いつも,山へたきぎをとりに行っていました。
ある日のことです。おじいさんが山へ出かけようとすると,おばあさんが、 「おじいさん。きょうは、おじいさんの大好きなおだんごを作っておきますからね。早く帰ってきてくださいね。」
と言って、送りだしてくれました。
おじいさんは、大喜びで山へ出かけて行きました。おばあさんの作るおだんごは、ほっぺが落ちるくらいおいしくて、日本一です。おじいさんは、おばあさんのおだんごが早くたべたくて、仕事もそこそこに帰ってきました。
さっそく戸棚からおだんごをとりだすと、急いで食べはじめました。
「やっぱり、おばあさんの作ったおだんごは、日本一だ。おいしい、おいしい。」
ところが、あと一個というときに、そのおだんごが、ぽとりと落ちてころころころがり、土間のすみにあった小さなあなに、すとんと入ってしまいました。
「ああ,おしいことをした。あんなにおいしいおだんごだったのに。」
と、くやしがっていると、どこからかおじいさんをよぶ声がします。「はてな。」と思って、声のする方を見てみると、さっきおだんごの落ちたあなから、小さなねずみが顔を出していました。
「おやおや、わたしをよんだのはねずみさんかえ。」
「はい。さっきはおいしいおだんごをありがとうございました。お礼に,おじいさんをわたしの家へごあんないいたします。どうぞ,目をつむってわたしのしっぽにおつかまりください。」
おじいさんは、びっくりしましたが,ねずみさんの言うとおりに目をつむり,そっとしっぽにつかまりました。
やがて,ねずみさんの家について、そっと目をあけてみると、これはどうでしょう。りっぱな御殿に、おじいさんねずみやおばあさんねずみ。お父さんねずみやお母さんねずみ。お兄さんねずみやお姉さんねずみ、あかちやんねずみまで、そろって、おじいさんを迎えていました。
「おじいさん。さきほどは、おいしいおだんごをありがとうございました。お礼にわたしたちがおもちをついてごちそうしますので、どうぞ、ごゆっくりなさっていってください。」
と、さっそくねずみさんたちはもちつきの用意を始めました。お父さんねずみはうすを運んできました。お母さんねずみはもち米をむしました。お兄さんねずみはきねを持ってきました。いよいよねずみのもちつきが始まりました。
ねずみがもちつきゃ ねこさえいなけりゃ
このよはごくらく ぺったんぺったん
あまりにも楽しそうなもちつきなので、おじいさんも仲間に入って、いっしょうけんめいおもちをつきました。
やがて、おもちができあがると、おじいさんは、おなかいっぱいごちそうになり、おばあさんへのおみやげのおもちまでいただいて、帰ってきました。
「おばあさんや。そういうわけで、このおもちをいただいてきたんだよ。さっそくきりましょうね。」
と、おじいさんがほうちょうを入れると、こちんと音がして、中からお金がざくざくと出てきました。
このはなしを聞いた隣のいじわるじいさんは、さっそく、どろのおだんごを作って,ねずみあなのところへ行き,
「おい、ねずみ。おだんごを作ってやったから、早くでてこい。」
と、どなりました。すると、小さなねずみがあなから顔を出しました。いじわるじいさんは、そのねずみをつかまえて、無理やりにどろのおだんごを食べさせました。 「おいねずみ。おだんごを食べさせてやったから、わたしをおまえの家までつれで行け。」
と、いやがるねずみさんのしっぽをぎゅっとつかんで、おしりをぽんぽんとたたきました。しかたなしにねずみさんは、泣きながら、おじいさんを家へつれて行きました。
やがて、ねずみさんたちの家につくと、
「おう、これがねずみの御殿か。なんとぜいたくだ。ところで、さっき、そこのねずみにおだんごを食べさせてやったから、お礼にもちをつくのだ。」
と,無理やりにおもちをつかせました。
ねずみさんたちは、こわくなって、しかたなくおもちつきを始めました。
ねずみがもちつきゃ ねこさえいなけりや
このよはごくらく ぺったんぺったん
ねずみさんたちの歌を聞いていたいじわるじいさんは、
「なになに、ねこさえいなけりやこのよはごくらくじやと。 よしよし。それならば、ねこのなきまねじや。にやあご。」
と、大きな声でねこのなきまねをしました。
そのとたんです。ねずみさんたちは、あわてふためいて、ばたばたとどこかへ行ってしまいました。そして、ねずみさんの家の屋根は落ち、かべはがらがらとくずれて、いじわるじいさんはうまってしまい、みうごきができなくなってしまいました。
「おうい、たすけてくれえ。」
いじわるじいさんは、泣きながら叫びました。その声を聞いた隣の優しいおじいさんが、あわててやってきますと、いじわるじいさんが、土の中にうまって、わんわん泣いているではありませんか。
「おやおや,どうしたんですか。すぐ助けてあげますからね。」
と、やっとのことで、いじわるじいさんを助け出しました。
泣いているいじわるじいさんに、どうしてこうなったかを聞いた優しいおじいさんは、
「そりやああなたがいけませんよ。ねずみさんたちはねこが大きらいなんですからね。ひとのいやがることをやって喜んでいたあなたが悪いんですよ。」
と、よくおはなしをしてあげました。
そんなことがあってから、いじわるじいさんもすっかりいじわるをしなくなり、隣りの優しいおじいさんと、仲良く暮らしたそうです。
「ねずみのもちつき」(実際の口演記録です)
口演者 高橋泰市
平成8年10月13日 「名童 中央童話会」として
鶴舞図書館集会室で収録
あのね、おじいさんとおばあさんがいたの。
おじいさんは、いつでもお山へ行くと、木を切るのがお仕事。おじいさんもおばあさんも仲が良くってね。やさしくってね。
ある日、おじいさんが「おばあさん。今から行ってくるからね。」
「おじいさん、行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「はいはい、じゃ、気を付けて行ってきますね」
と、出かけようとすると、おばあさんがね、
「おじいさん、おじいさん、おじいさん。」
「何か、忘れ物をしたのかな」
「おじいさん、お山へ行くの、気を付けてね。」
「聞いたよ。今。」
「おじいさん、転んだら起きるんですよ。」
「分かったよ。じゃ、行ってくるからね」
また、おじいさんがちょこちょこっと出かけようとすると、おばあさんがね
「おじいさん、おじいさん。」
「まだ、用かい?」
「おじいさん。転んだら起きるんですよ。」
「分かったって!おばあさん、さっきも言ったじゃない。」
「そうね、気を付けてね、行ってらっしゃい」
「じゃ、行ってくるよ」また、おじいさんが、ちょこちょこっと行こうとするとね、
おばあさんがね、
「おじいさん、おじいさん。」
「また、用かね。転んだら起きるんだとさ、でしょ、おばあさん」
「いいえ、ちゃんと転んだら、きちんと起きるんですよ」
「なんだあ。そうか、じゃ、もういっぺん出かけるからね。おばあさん」
「はい、行ってらっしゃい」
おじいさんが、また、出かけようとすると、
「おじいさん、おじいさん」
「わっ!なんだよ、おばあさん」
「おじいさん、おじいさんね、いつもいつもよく働いてくださるから、今日は、おじいさんの大好きなおだんご作っておきますからね。」
「ほほう、おだんご。おばあさんのおだんご、日本一おいしい。はい、楽しみにしていますよ。」おじいさん、喜んで、大きなのこぎりをどっこいしょとかつぐと、
「どっこいしょ、こらしょ、どっこいしょ、こらしょ」お山を上がっていく。
「さあて、今日は、どの木を切るかな?おっ、これは、まだ、ちっちゃいからな。もっと、大きくなってから。これも、まだ、小さい。これがいい、これがいい。よし!この、大きな木を切るよ。」
🎶(ゴリゴリゴリ、はい、ゴリゴリゴリ、ゴリゴリゴリのゴリゴリゴリ。)
「まてよ、おばあさん、今日はおだんごを作っておいてくれるって言ったなあ。うれしいなあ。はい」
🎶(ゴリゴリゴリ、はい、ゴリゴリゴリ、おだんごだんご、ゴリゴリゴリ。おだんごだんごゴリゴリ)
「まてよ、おばあさん、もう作って待ってるかもしれない。早くお家へ帰って、あのおいしいおだんごいただきましょう。」
のこぎりをひょいとかついで、あわてて帰ってきました。
「どっこいしょ、こらしょ。どっこいしょ、こらしょ。どっこいしょ、こらしょ」
(バタン)(ころぶ音)
「あっ、おばあさん、転んだら起きるんですよって言ったな。はい、早くおだんご、どっこいしょ、こらしょ。どっこいしょ、こらしょ。」
帰ってくると
「おばあさん、ただいま。」
「おっ!おじいさん、今日は早いんですね。」
「おだんごが食べたくて。ほう、もう作ってあるって?戸棚の中?どれどれどれ、戸棚の中。あるある、ほら、こんなにたくさん。おばあさんのおだんごはおいしいからね。ごれから、いただきましょうかね。こっちのほうがおいしいかな、いや、こっちのほうがおいしい。こっちのほうかな。いやあ、おいしそうなおだんご。いただきまーす」(食べるしぐさ)
「うん、おいしい。やっぱり、おばあさんのおだんご、日本一だ。おいしいなあ。これも、いただきましょうかね。いただきまーす。」(たべるしぐさ)
(聞いている子どもたちに、あげようか?遠慮しなくていいんだよ。おいしいんだよ)
どんどん食べているうちに、どんどん、少なくなって
「あっ、あと三つだ。これは、明日のお楽しみ。じゃ、戸棚の中に、もういっぺんしまっておきましょ。おいしかったなあ。あしたもまた、あの、おだんごが食べられる。うれしいなあ。」
(聞いている子どもたちとやりとり・・・・)
「じゃ、今日、このおだんご全部食べちゃおうかな?残しといて取られちゃうとだめだな。じゃ、いただきますと。うーん・・あとひとつ。これが、一番おいしいよ。あーあー」(おだんごを落とすしぐさ)
「落ちちゃった。あーあー。穴の中に落ちちゃった。もったいないことしちゃったなあ。こまったなあ。どうしよう」そうしているとね、
「おじいさん」
「わ!だれか呼んだよ」
「おじいさん」
「あ!誰だい?誰だい?私を呼んだのは?分かった。おばあさんだな。おばあさん。私を呼んだのは、おばあさんかね?」
「いいえ、呼びませんよ。」
「おかしいな。」
「おじいさん」
「また、呼んだ。」
「誰だい?誰だい?」
するとね、下の方からね。
「おじいさんの足の下」
「わあーあ。」
ひょいと見てみると、かわいらしいねずみさんが顔を出している。
「まあ、ねずみさん。今、私を呼んだのは、ねずみさん?」
「おじいさん。おだんご、ありがとう」
「わ!いま、そこに落ちてったおだんごを食べたのは、ねずみさん?」
「ありがとう。おだんごいただいたかわりにね、ぼくの家に連れてってあげる。」
「えっ!私を?私をねずみさんの家へ?だめだよ。だめだよ。どっから行くの?」
「ぼくの家ね。あの、穴の下」
「えっ!あーだめだ。あんな小さな穴から、私は入らない。」
「大丈夫だよ、おじいさん。ぼくにしっかりつかまって」
「しっぽにつかまるのかい?はい。どっこいしょと。これでいいかい?」
「もうちょっと、強くしないと、すぽっと抜けちゃう」
「これくらいかい?」
「そう、それでいいんだよ。それで、目をつむって」
「はい、目をつむるの? はい、目をつむったよ。」
するとね、ねずみさんはね、「じゃ、おじいさん、出発しますよ。」
といったと思うと、おじいさん連れてね、
🎶(チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ)
「おもしろいなあ。チョロチョロチョロ、これで、ねずみさんの家に行けるかな?」
🎶(チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ)
「あっ!止まったよ。もう、目を開けていいのかい?」
「はい、はい、はい」
大きな目を開けてみると、おじいさんねずみ、おばあさんねずみ、おとうさんねずみ、おかあさんねずみ、おにいさんねずみ、おねえさんねずみ、赤ちゃんねずみ、みんな、ずらーっとならんで、・・・
「わあ、これが、ねずみさんのお家?わあ、こんにちは。」
すると、お父さんねずみがね、
「おじいさん、今、おいしいおだんごをありがとうございました。」
「えっ、私が落としたおだんご、みんなで食べたの?みんなで食べたから、こんなに少しずつ。こんど、おばあさんに言って、たくさん作ってもらうからね。」
そうしたら、お父さんねずみはね、
「こんどは、わたしたちが、おもちをついてあげますから」
「えーっ、ねずみさんがおもちをついてくれるの?うれしいなあ。はい、お願いしますよ」と、待っていると、おかあさんねずみは、お米を蒸しました。おとうさんねずみは、大きな臼を持ってきました。にいさんねずみは、杵を持ってきました。いよいよ、ねずみの餅つきが始まる。どうやるのかなあ、と、見ていると、
🎶(ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。)
「ああ、おもしろいなあ。じゃ、私もお手伝いして、何だって?えっと、ねずみがもちつきゃ、それから?猫さえいなけりゃ。そうか、ねずみさんは、猫が嫌いだからな。猫さえいなけりゃ、はい、この世は極楽。分かったぞ。じゃ、私も手伝い。はい、ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。」
やっと出来上がると、おじいさんの目の前に、大きなお餅。
「わあー、おいしそうだなあ。できたてのお餅、いただきまーす。(餅を食べるしぐさ)うーん、延びる」
おいしくいただくと、
「ねずみさん、ありがとう。じゃ、おばあさんにも頼んでおくからね、じゃ、今日は、これで、さようならしますよ」
「おじいさん?もう帰るんですか?じゃ、おばあさんにもお土産ね」
おばあさんにも、お餅。どっこいしょと、それをかつぐと、さっき連れてきてくれたねずみさんのしっぽに、ひょい。
「さあ、帰りましょ。さようなら」
🎶(チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ)
お家へ帰ってくると、
「おばあさん、ただいま」
「あらっ、おじいさんの声? おじいさんどうしたんですか?」
「どうしたって?どうしたって、おばあさん。私は帰ってきたんだよ」
「おじいさん、どこへ行ってたんですか?」
「うん、チョロチョロチョロ」
「何ですか?それ。チョロチョロチョロへ行ってきたんですか?」
「チョロチョロチョロとねずみさんに連れられてな。ねずみさんのお家へ行ってきた。そうしたらねずみさんが、おもちをついてくれて、はい、おばあさん、おみやげ。」
おばあさん、喜んだね。
「わあ、このお餅、さっそくいただきましょ。」
包丁を持ってきて、お餅を切りましょ。
「それ、どっこいしょ」カチン!
「あれ?おかしいな?何かつかえたよ。もう一回、どっこいしょ」カチン!
「あ、お餅を切ったら、中、見てごらんなさいよ。お金がザクザク。わあー、ねずみさん、こんなにお金をくれた。お餅も切れた。わあ、どうしょうかな?おだんごたくさん作らなきゃね」と言っていると、となりのいじわるじいさんがね、
「やっ!、やかましいぞ。何だろう?行ってみよう。はい、ごめんください。」
「はい、となりのおじいさん、いじわるじいさん、どうしたんですか?」
「いやあ、隣が何だか騒がしいから来てみたが、このお餅とお金、どうしたの?」
「これはね、ねずみさんにおだんごをあげたらね、ねずみさんがチョロチョロチョロと連れてってくれてね、向こうでお餅ついてくれて、これがおみやげ」
「わあー、分かった。おだんごだな。おだんご。おだんごをねずみにやればいいんだな。分かった、分かった。はい、さようなら」
家へ帰っちゃった。いじわるじいさん。
「ねずみにおだんご、ねずみにおだんご。ねずみに食べさせるんだから・・・と、はい、どろのおだんごでいいや。(どろだんごを作るしぐさ)はい、どろどろどろ、よし、こねこねこね。よし、これでできた。おい、ねずみ、出てこい。こりゃ、ねずみ、出てこい」
ねずみが、穴からちょいと顔を出したところを、ひょいとつかんだおじいさん。無理に口をグーと開けると、今作ったどろのおだんごをぐりぐりぐり。(無理に食べさせるしぐさ)ねずみさん・・・ねずみさんのしっぽをぐっとつかんだ。そして、
「さあ、早くおまえの家へ連れていけ!」
言われて仕方なしに、ねずみさんは泣きながらチョロチョロチョロ、エーン、チョロチョロチョロ。
「早く行かんか!」お尻をぴんぴん!たたかれたねずみは、「アッ!痛い・・・」
🎶(チョロチョロチョロ、チョロチョロチョロ)
「やっと着いたな。これか?ねずみの家って、こんなりっぱな家。私の家よりもっとすばらしい。ぜいたくな、こんな家に住んでおって。これこれこれ、さっき、このねずみにおだんごをやったから、早く餅をつけ!早く、餅をつけ!」
言われてしかたなしに、ねずみさんたち、また、お餅つきの用意をしました。
「もうじき餅つきが始まる。できあがったら、そのお餅をもって帰ると、お餅の中からお金。早くつけ!早くつけ」
言われてしかたなく、餅をつき始めました。
🎶(ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン)
「なんだい!そのつきかた。もっと、しっかりつけ!」
「はい、はい。ねずみがもちつきゃ。猫さえいなけりゃ、この世は極楽、ペッタンペッタン。」
「よし、わしが手伝ってやる。何だって?ねずみがもちつきゃ、猫さえいなけりゃ。あっ、猫がいなけりゃだな、この世は極楽、ペッタンペッタン。そうか、猫が来ると怖いんだな。よし!今、聞いておれ」
ねずみさん、いっしょうけんめいペッタンペッタン、やっている最中に、いじわるじいさんね、「ニャオ」(猫の鳴きまね)
その声を聴いたねずみさんたち、「猫だ!」といったかと思うと、お餅も何もかも、全部ほったらかして、パパパパパーッと逃げちゃった。逃げていくと、天井がバサッと落ちてきて、壁がバターッと倒れてくる。いじわるじいさん、首まで壁土に埋まっちゃった。
「わあ、どうしたんだ。ねずみ!どうしたんだ、ねずみ!おーい。あーあ、みんな行っちゃったな。何だい。こりゃ、壁土か?あーあー、困ったな。さあて、抜け出すとするか。」
出ようとしたって、ここまで(首まで)土に埋まっているから出られない。
「あー、助けてくれよ。おーい、助けてくれー、助けてくれー」
大きな声で叫ぶと、あの、優しいおじいさん
「お隣の家から、助けてくれーって聞こえるよ。どれどれ、行ってみようか。」
行ってみると、隣のいじわるじいさん、ここまで(首まで)土に埋まっている。
「どうしたの、じいさん?」
「どうしたもこうしたも、ないよ。あんたに教えてもらって、ねずみにおだんごやったんだよ。餅をつかせたのはいいんだけど、途中でニャーゴと言ったら、こんなになっちゃった。」
「そりゃ、おじいさん、いけませんよ。ねずみさんたちはね、猫が大嫌い。それを、いじわるじいさん、ニューゴとやったの?もう、やっちゃだめですよ」
と言うと、いじわるじいさんは「もう、絶対やらないから、助けておくれ」
言われて、優しいおじいさんは、いじわるじいさんをどっこいしょと放り出した。
さあ、そんなことがあってね、あの、意地の悪かったじいさんが、とても優しいおじいさんになって、お隣同士仲良く暮らしたんだそうです。
「ねずみのもちつき」のお話、これでおしまい。
語りの資料を提供していただいた、高橋泰市氏は、平成26年3月逝去されました。
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